彼女が、てのひらの上で豆腐を切ろうとするを見て…

「わああ、やめろ!」

彼はいきなり取り乱し、目を閉じて叫びます。

「は?やめろって、何を」

「てのひらの上で豆腐を切らないでくれえ!」

「でも…お豆腐って、てのひらの上で切ることになっているんだけど…」

「じゃ、じゃ、てのひらの上で切ってもいい、けど、僕に見えないようにやってくれえ!」

「へ?」

そこで彼女は、彼に言います。

「もう目をあけて大丈夫だよ。今、お豆腐切ってないから」

「…ほんとに?」

その言葉を信じて、目を開けた彼の前には、依然として、てのひらの上に豆腐をのせたまま、包丁を構えた彼女が…

「…うああああ」

「まだ切ってない、切ってない」

「やめてくれえ!切れたらどうするんだ!」

「包丁使い慣れてるから。自分で自分のてのひら切っちゃうよな莫迦なことしないって」

「僕は、その、包丁がてのひらに触るって言うだけで、もう我慢出来ない」

それを聞いて、包丁の切っ先で、自分の指をつついてみせる彼女…

「うわあああ。やめてくれ!包丁、おいてくれー」

「…じゃあ、ちょっと謝ってみてくれない?」

「は?僕がどんな悪いことをしたっていうの」

「何もしてない。でも、ちょっと試しに謝ってみてくれないかなあ。そうしたら、包丁おくから」

「判った。何が何だか判らないけど、僕が悪かった」

「ん。…はい、包丁、おいたよ」

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小学校の家庭科の時間、同級生が包丁で、てのひらの上の豆腐を切る時に、叩くようにではなく引くように切った事で、てのひらも一緒に切ってしまい『てのひらの上の血まみれの豆腐』を目撃した事。

それが、彼が てのひらで豆腐を切る事に、恐怖を感じる事になった原因でした。

そして彼女は、その日、てのひらで豆腐を切れば、とにかく彼に謝らせる事が出来ると言う『喧嘩の必勝法』を手に入れたのでした。。。




結婚物語(下) (中公文庫)
新井 素子
中央公論新社
2011-10-22

    

    
★過去の作話★

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