「この度は、当社のコピーサービスをご選択いただき 有難うございます」

 ヒューマン・コピーサービスのサービスカウンターで、担当の男性は 笑顔で俺を出迎えた。

「どのプランをお望みでしょう?」

「3年間のコースを」

 担当者は、俺の目の前のタブレット端末に、コース内容の説明を呼び出す。

「このプランですと…期間満了時点、つまり人体複写の3年後には、コピーまたはオリジナルの どちらかの存在を消す事になりますが…どちらを消すご予定で?」

 そんな事は、決まりきっている。

「コピーの方です」

「承知いたしました。では、その旨の取り決め書類を 作成致しましょう」

 タブレット端末には、別の細かい説明文が呼び出された。

「オリジナル体とコピー体の何れを処分するか、親族様、或いは利害関係とご相談頂き、取り決めを文書にします。

 必ずしも 作成は強制では御座いませんが、後々のトラブルを避ける手段として有効ですので、当社では、この様な法定書類の作成をお勧めしております」

 営業スマイルをこちらに向ける担当者。

 渋々、俺は切り出した。

「実はですねぇ…自分はある事情で、3年間行方をくらますのです。その身代わりとしてコピーを作成する訳なので──」

「ご事情はお察しいたしますが…当社としては、事後のトラブルを避ける意味でも、取り決めの文書を作成を 強くお勧めします」

 これは、内緒の計画だ。

 取り決め文書など作ったら家族や周囲の人間にバレしまう。

 そうしたら、身代わりと入れ替わって 3年間好き勝手に暮らすと言う夢が、実現出来ないではないか。

 俺は、担当者の方に身を乗り出した。

「法では…<原則オリジナルを残す>と、規定されてますよね?」

「─ <公益を毀損しない限り>で 御座いますが」

「常識的に考えて、オリジナルを残す事こそが<公益>ですよね?

 複製側には 印だって付けられます。

 それで、オリジナルとコピーの区別は明白に出来るんだから、何を揉める事があるんですか?」

「まあ…最終的には、お客様のご意思ですから……」

 カウンターの下から、担当者が書類を取り出す。

「─ それでは、この<当社は事前注意義務を果たしましたが、お客様が自分の意志で書類を作成しなかった>旨の確認書に、ご署名を願います」

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「な、何で自分の方が 消えないといけないんですか!」

 調停室で俺は叫んだ。

「オリジナルは、こっちの方なんですよ!!」

 書類から、調停官が目を上げる。

「それは、存じております」

「じゃあ、どうして!!!」

「まず第一に、法的に有効な 事前の取り決めがありません。

 もしそこに、<オリジナル体を残すべし>と規定されていれば、問題なくあなたが残る事になったでしょう。

 しかしながら今回は、その取り決めが御座いません。つまり、オリジナル体を残す、積極的な理由はない事になります」

 確かに3年前、俺は法的な書類を作らなかった。

 しかし、そんな事は関係ない。

「ほ、法では<原則オリジナルを残す>と、規定されている筈です!」

 調停官は、淡々と答えた。

「それは、<公益を毀損しない>限りです」

「オリジナルを残す事こそが<公益>ですよね!?」

「どちらを残す事が、より<有益>かと言う事です。

 あなたの親族や利害関係者に確認したところ、全員が3年間共に過ごした存在、つまりコピー体の方を残す事を望まれました。

 それを踏まえた上で、オリジナルであるあなたを処分し コピーを残すべき事こそが、<公益を毀損しない>事であると、当調停所は判断した次第です」

 どうやら俺は、3年間好き勝手をした報いで、俺は周囲の人間から見捨てられたらしい。

 膝から崩れ落ちた俺の背後に、ふたりの係員が近づく。

 彼らに無言で何を指示した調停官は、手にした書類を机上でトントンと揃えた。

「安心してください。オリジナル体は消滅しても コピー体は残ります。つまり、今後もこの世界に、<あなた>が引き続き存在し続ける事には、変わりないのですから。」



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<人間コピー>のお話


ダークなお話

    

    
★過去の作話★「月白の諧謔」

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