銀曜日の戯言

領国は越前敦賀 官位は従五位下 官職は刑部少輔

「契りあらば 六の巷に まてしばし おくれ先立つ 事はありとも」

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当ブログでは、コミックや文字本の、興味深かったエピソードや、個人的な駄文、オリジナルの作話を掲載しています。

ぶたぶた

占い師。。。

そのビルには、壁に ほんの僅かな窪みがありました。

夜になると、そこには、その感心するほど、ピッタリとしたサイズの小さなテーブルが置かれます。

テーブルの上には『開運』の行燈。

椅子に座っているのは、ひげを生やした、占い師のおじいさん。

彼女自身は、見てもらった事はないですが、いつものそこには、そんな光景がありました。

しかし、その日は違っていたのです。

椅子に座っているはずの、占い師のおじいさんは、いませんでした。

その代わりなのか、テーブルの上には、帽子をかぶって、袈裟を着た、ぶたのぬいぐるみが、ちょこんと乗っていたのです。

「留守番代わりに、かわいらしいぬいぐるみを置いておくなんて、何だかとても素敵だな」

思わず微笑んだ女性は、テーブルに近づきました。

テーブルの上のぶたのぬいぐるみは、色は煤けたピンクで、大きさはバレーボールほどです。

つぶらな目はビーズで、右耳だけ、そっくり返っていました。

「かわいーい」

彼女は、思わずそう口走ります。

その言葉に、答える声があります。

「あなたも、かわいいですよ」

「え?」

「占ってほしいですか?」

女性は、辺りを見回しますが、近くに人はいません。

「まさか、ぬいぐるみ?」

そんな彼女に、ぶたのぬいぐるみは確認します。

「どうします?」

「今日は時間ないの」

「悩み、あるでしょ?」

「いえ、そんな」

「ほんと?」

戸惑う女性に、ぬいぐるみは言いました。

「私、今日ここは代わりなんです」

「代わり?」

「そう。いつもおじいさん座っているでしょ?彼、今旅行に行っててね、その間の留守番なんです、私は」

「はあ」

「気が向いたら、ここに連絡してもらえますか?」

彼女は、テーブルの上の、ぬいぐるみが指さした様に思えた辺りを見ます。

そこに置かれていたのは、何枚かに名刺。

1枚を手に取った女性の耳に、ぶたのぬいぐるみの声が届きました。

「遠慮なく、来てくださいね!」



ぶたぶたの休日 (徳間文庫)
矢崎 存美
徳間書店
2013-02-01

    

    
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はじめまして。

「おはようございます。」

ドアを開けたら、そこには ぶたのぬいぐるみが立っていました。

「あ…は、はい。おはようございます」

反射的に、依衣子さんは、応じてします。

ぬいぐるみは、背負っていた黄色いリュックを降ろして、中から何か取り出します。

「はじめまして。私はこういうものです」

ぶたのぬいぐるみが差し出したベビーシッター会社の名刺には『人事担当部長 山崎ぶたぶた』書かれていました。

「ぶたぶたと、お呼びください」

写真付きの許可書を提示しながら ぬいぐるみは、突き出た鼻の先をもくもく動かします。

黒いビーズの目なのに、何故か にこやかなのが判かる、ぶたぶたの表情。

「申し訳ありません。いつものベビーシッターは私の部下なんですが、急に体調を崩しましてね。それで私が参りました」

説明を聞いた依衣子さんの頭には「人間が…ぬいぐるみの部長の部下?」という疑問が浮かびます。

「もうお出かけですよね。お嬢ちゃんは どこですか?」

ぶたぶたは、テキパキと話を進めました。

「部下からの引き継ぎは万全ですので、安心して おでかけ下さい。」

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「昨日はすいませんでした」

いつものベビーシッターは依衣子に謝罪します。

「いえ、そんな…かわりの方、いらしてくれたし…」

好奇心に負けてた依衣子さんは、昨日の件を尋ねました。

「あの…あの方…部長さん…あの…どういう方なんですか?」

「あれは父です」

「えっ?」

「うちの会社、家族経営なんです。社長は母なんですけど、父は社員教育を」

「… 似てらっしゃらない、ですね」

「ええ、母似で。姉はそっくりですけど」

「─ お姉さま、お父さま似なんですか!?」

「姉は うちの仕事手伝ってなくて、銀行員の奥さんなんですけどね」

依衣子さんは、どうしても訊いてみたい事を、思い切って口に出します。

「お父さまと お母さま、どこで知り合ったんですか?」

「幼なじみだそうです。小さい時から、ずっと一緒だったそうで。。。」



ぶたぶた【徳間文庫】
矢崎存美
徳間書店
2012-03-02

    

    
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タクシー

深夜まで残業した男性は、タクシーで帰宅しようとしていました。

「お、ラッキー」

『空車』の文字が光る車のライトが近づいてくるのを見て、思い切り手を振り上げます。

それに気が付いたタクシーは、速度をゆるめながら、ウインカーを出しました。

手を下ろそうとした瞬間、男性の背筋に緊張が走ります。

近づいてくるタクシーの運転席に、誰も乗っていない様に見えたのです。

やばいと思って、固まった手を、何とか下げ様と努力する男性の目の前に、タクシーは停車します。

「ぱこ」

その場にそぐわない音を立てて開く、タクシーのドア。

「このタクシー…乗っても良いのか?」

男性は、恐る恐る運転席を確認しますが、やはり誰もいません。

「かちかち」と言うウインカーの音と、点滅するライトに決断をせまられ、男性は覚悟を決めてタクシーに乗り込みます。

「どちらまで ですか?」

無人だと思った車内で、人の声が尋ねました。

男性が急いで降りようとした瞬間、タクシーのドアは閉まります。

「─ お客さん、どちらまでですか?」

狼狽した男性は、何も言えません。

「大丈夫ですか?」

運転席の背もたれの上に、声の主が現れます。

「─ ぶ、ぶたの…ぬいぐるみ?!」

小さなピンク色の、ぶたのぬいぐるみの顔が、男性見下ろしていました。

ぬいぐるみがが喋る度に、鼻の先は「もくもく」と動きます。

その頭には、タクシー会社のマークの入った人間サイズの帽子が、重そうに、かろうじて引っかかっていました。

「すいません、どちらまでですか?」

少し落ち着いた男性は、ぶたのぬいぐるみに、自宅の住所を告げます。

「はい、わかりました」

運転席の背もたれの上から、ぶたのぬいぐるみの姿が消えました。

「ちょっと待て!運転できるのか?!」

男性が言い掛けた瞬間、タクシーは発車します。

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ぶたのぬいぐるみの運転は、かなり丁寧なものでした。

滑らかに走行したタクシーは、無事、目的地に到着します。。。



ぶたぶた【徳間文庫】
矢崎存美
徳間書店
2012-03-02

    

    
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紀之介
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